Before dawn〜夜明け前〜

共謀者


風祭の家を出て、いぶきは一条と丹下と共に迎えに来たタクシーに乗り込む。

「はぁー、参ったぁ」

タクシーが走り出した途端、丹下がボヤく。

「丹下、食ったのか?」
「アレは、ダメ。その辺のねーちゃんよりタチ悪い。
やらせてあげる、とか、女王様気取りでさぁ。
チョコッと触ってやっただけで、バカみたいに反応しやがって。
青山、風祭のヤツ、相当、男引っ張りこんでるだろ」

どうも、一条といぶきが洗面所に行っている間に、丹下は玲子に誘惑されていたようだ。

「丹下くん、私の事、知ってたんだね」

「え?
あー、うん。先輩に教えてもらった。
たまたま、先輩が風祭に招待された時にその場にいてさ。
先輩が珍しく行くって言うから、理由を聞いた。

でも、心配すんなよ、誰にも言わねーから」

丹下は、そう言っていぶきに笑いかけた。
端正な一条とは、また違う、ちょっと軽薄なアイドルのような顔立ち。

信用していいのか、わからない。

「丹下は、大丈夫。
バカだけど、信用していい」

「わざと茶をこぼして、青山と二人っきりにしてあげて、しかも、あんなアバズレの相手までさせられたのに、先輩、ひどいなー」

丹下の言葉で、今日の一連の流れは予定調和だったことがバレる。

やっぱり、おかしいと思った。
いぶきを連れ出す為に、そんな面倒なことしたなんて。


「入学早々、夜中に補導されかけたのを助けたんだ。これくらいどうってことないだろ、丹下」

「あはは、まあね。
俺、先輩には山ほど借りがあるから、いいんだけど。
上手いこと、青山を連れ出せて良かったよ」

そう言って、丹下は改めていぶきを頭の先から足の先まで見た。

「磨けば光る感じ?
あんなバカ女のいいなりで生きていかなきゃならないなんて、屈辱だろ、青山。

無理矢理、家に繋がれている。
俺たちと同類だ。先輩の狙い通り。

じゃ、俺、ここで良いよ。遊びに行くから」

丹下は、駅のそばでタクシーを止めた。

「丹下、ありがとな」

一条にピースサインをして、丹下はタクシーを降りて行く。

タクシーはそこから少し走って高層マンションの前に止まった。
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