蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「おいしい。これ、すごくおいしいね」


 湯気なのか涙なのかわからないけれど、なんだかみっともないことになっている鼻をすする。


「あらぁ乃梨子ちゃん、蕎麦食べ終わる前に舐めたんね」


 仕方なく大玉を片方の頬に収めて蕎麦をすすったら、口の中はとてもおかしな味になった。しょっぱい涙の味もする。


「あのね、小舟さん」


 退職のこと、蓮司さんのこと、父のこと、白川のこと。ブーケ。ダンジュに負けたくないこと。胸に溜めていたいろんなことが堰を切ったようにあふれてくる。


「悔しいことがあって、でも悔しがってる自分も嫌でね。それにもうすぐ仕事も辞めなくちゃいけなくてね。でも、家に戻っても会社を立て直せるか自信がなくて。好きな人にも信じてもらえなくてね」


 事情を知らない小舟さんには支離滅裂なのに、それでも小舟さんはずっと「うん、うん」とうなずきながら聞いてくれた。

〝涙ぐんでいたらしい〟

 見積書は昨日届けたばかりだ。昨夜、蓮司さんの帰りは遅かった。
 私の知らないところで、仕事には関係ないところで、綾瀬花音と蓮司さんが会っていたことを知ってしまう言葉。

湯気に紛れて私は鼻をすすり続けた。




< 210 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop