優しい彼と愛なき結婚
ホテルの駐車場に車を止め、綾人さんに腕を引かれるがまま受付をした。
歩夢はお金のことは一切言わなかった。
うちに借金があることは知っていたし、大学も奨学金で行くことができた。
勉強と、バイトと、家事。
理解しているつもりではいたが、私は歩夢の辛さを本当に理解していたのだろうか。
友人と遊ぶ時間を削って、バイトに打ち込んでいたのかもしれない。
自分の仕事の忙しさを理由に、歩夢のことを後回しにしていたのではないか。
「優里、そんなに怖い顔しないで。今夜、僕に身を任せれば全て解決できるし、楽になれるよ」
「……それが弟のためになるのでしょうか」
「借金はない方がいいでしょう。それに歩夢くんの就職先がなかったら、僕が面倒を見るよ」
「……」
エレベーターは最上階で止まり、角部屋のドアにカードキーをかざした綾人さんは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「さぁ、どうぞ」
「……お邪魔します」
一歩、足を踏み出したーー私自身の意志で。