優しい彼と愛なき結婚
部屋に入ればキラキラと輝く夜景と、真っ暗な空が見えた。今夜は雲が多いようで星を隠している。
「綺麗でしょう。僕のお気に入りの部屋なんだ」
綾人さんは夜景を見下ろして自慢げに言う。
そうなんだ。
この部屋に水無瀬さんも連れて来たの?
そう意地悪な問いを投げかけたいが、綾人さんの機嫌を損ねるだけだと口を閉ざす。
「ワインでも飲んで、リラックスしようか」
「はい」
そうだ、それがいい。
お酒の力で今夜の記憶はあやふやにしたい。
鮮明な思い出と残るほど、残酷なことはない。
綾人さんはソファーに座り、予め用意されていたワインボトルを開けた。お酒には詳しくないが、そのラベルから20年前の赤ワインだと推測できた。
「こっちにおいで」
綺麗な赤の液体が入ったワイングラスを2つ両手で持ち、ベッドに移動した綾人さんに従う。
想像以上に弾力があるベッドに腰掛けて、グラスを合わせる。
「優里は大悟のどこが好きなの?それとも僕に恥をかかせたくて、大悟を選んだの」
優雅な動作でワインを口に含む色っぽい綾人さんを見て、胸が騒ついた。
逃げるなら今しかないと警告音が鳴り響く。