優しい彼と愛なき結婚
栗饅頭に手を伸ばした大悟さんは大きな口を開けて頬張った。
「俺も色々と考えたんだ」
もごもごと緊張感なく紡がれる言葉。
敢えて緩い雰囲気を作ってくれているのだろう。
「アンタのことだから俺に心配かけたくないとか、迷惑かけられないとか、そういう理由で綾人のことを話せなかったんだろうな。けど、それは間違ってたと分かってくれた?」
「はい。反省しております」
「だったら俺は元通りの生活に戻ればいいと思う」
「元通り?」
「またあのバカな兄貴がなにを仕掛けてくるか分からないし、アンタの傍にいるよ。ま、アンタが望めばだがな」
本当ですか?でも、
「また私たちのことを優先してくれて、それで大悟さんは幸せですか?」
「俺は生半端な覚悟で、アンタと家族になったつもりはねぇよ。最後まで面倒見る。それが借金返済までか、俺が死ぬまでかは分かんないけど」
大悟さんの目元にもはっきりと影ができていた。よく見たら顔色だって良くない。
「どうしてそこまで…」
「アンタを助けたいと思ったから。きっかけはばあちゃんの一言だったかもしんないけど、あの日、一緒に雨宿りした相手がアンタでなかったら、結婚しようとは言わなかった。アンタの家族を想う真っ直ぐな気持ちが、俺を動かしたんだよ」
もしあの水曜日、綾人さんに会いに行くことがなければ、水無瀬さんという女性を知ることも、大悟さんと結婚することもなかったのかもしれない。
同じ時間に巡り合わせた偶然だった?
「大悟さん。あの日、どうしてあの場所に、綾人さんの会社の近くに居たのですか?」
湯飲みに手を伸ばそうとした大悟さんは、私の言葉に動きを止めた。