優しい彼と愛なき結婚
その晩、骨折と嘘をついて休んだことをそれぞれのバイト先に謝りに行った大悟さんは帰ってこなかった。
ペナルティーとしてコンビニの夜間のシフトに交代させられたらしい。朝まで戻らないと連絡が入り、私は水無瀬さんに連絡を入れた。
彼女はうちの近くに来てくれるというので、自宅に招待した。
真っ赤なハイヒールと、レースがあしらわれた紺色のワンピースを身に纏った彼女は手土産に豆腐でつくったハンバーグを持ってきてくれた。
「私が好きな惣菜屋のヘルシー料理だから。病み上がりのあなたにも食べられると思って…もうすっかり顔色は良くなったみたいだけど、大悟とは上手くいったのね」
「はい、ご心配をおかけしました」
彼女が上がったリビングには甘い香水の香りが漂う。上品で彼女に似合う香りだ。
綾人さんが夢中になるほどの美人。
高校時代は子供のあどけなさが残っていたけれど、今は洗礼された大人の女性だ。
そんな水無瀬さんも、大悟さんを好きだと言っていた。本心からの言葉だったに違いない。
聞いてもいいものかと迷いながら、玄米茶を煎れる。
「ありがとう。あなたと夕飯を食べているなんて、なんだか不思議ね」
久しぶりに再開したあの水曜日。
私は余裕な表情を見せた水無瀬さんを嫌な人だと認識してしまった。なにも知らないくせに、人は第一印象で決めてしまうから厄介だ。