優しい彼と愛なき結婚

少しずつ口に入れる。
吐き気は起きずに、ご飯が美味しいと感じることの有り難さを痛感した。


「最初は綾人のことをなにも知らず、猛アプローチされるがままに付き合ったの。しかしすぐにうちの母が真実を教えてくれてーーそれからは綾人は復讐の対象になったわ」


「どうしてですか?悪いのは綾人さんだけではなくて…」


全ての元凶を作った父親を責めるべきではないだろうか。


「そうね。父親とうちの母が愚かだったと、綾人には別れるようと申し出たけれどね。そんなの関係ないって言ってくれたの。嬉しかった。でもね私が高校2年の夏、母は病に倒れた。綾人に最期に会って欲しいとお願いしたの。でも彼は、あれこれ理由をつけて病室には来なかった。それどころか他の女とよろしくやってたわ」


「…そんな時に……」


綾人さんなら、あり得る。


「それでも母の前では笑顔で耐えた。母は父親のいない私を育てることを両親に反対されて疎遠になり、お見舞いに来てくれた人は誰もいなかったの。私たち親子は孤独だった。…そんな中ね、大悟が綺麗な花を持って現れた。白い歯を見せて笑いながら、毎日来てくれたの」


「…想像がつきます」


「うん。母が息を引き取る間際に、"妹のことは俺に任せてください"って言ってくれたわ。カッコいい奴だよね」


水無瀬さんの目は潤んでいた。


「あなたは綾人に利用されていたかもしれないけれど、それは私も同じ。あいつにとって私も都合の良い女だっただけよ」


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