優しい彼と愛なき結婚
指摘されなくても酷い顔をしていることくらい分かっているよ。言葉にすることで精一杯なのだから、なるべく視界に入れずに顔くらい大目に見て欲しい。
唇に触れていた手が頬に移動し、くすぐったさに身をよじる。
「俺もアンタが好きだ」
え?
「俺は優里が好きだよ」
口を開いてその言葉の意味を確認しようとすれば、迫った顔に息を呑む。動揺している私を逃すまいと大悟さんに後頭部を押さえつけられ、
性急な口づけをされた。
最初は角度を変えて啄むように、次第に貪るような口づけになる。
「んっ、…」
大悟さんの舌が私の歯列をなぞり、甘い声をもらした自分にハッとする。
彼の肩を力一杯叩く。
「痛っ」
不意を突かれた大悟さんが唇を離した隙に、距離をとる。
ああ、通行人の視線が痛い。
「こんな大通りでなにするんですか」
「そんな涙目で言われても、逆効果」
世間体など彼にとってはとるに足りないもののようで、再び私を引き寄せて広い胸に誘導してくれた。
「全然足りない。優里は気持ちよくなかった?」
頭上から降ってきた台詞に聞こえないフリをして、胸に顔を埋めた。
同じ柔軟剤の香りがして、私たちは家族なのだと実感した。