優しい彼と愛なき結婚
「俺はあの日が初めてじゃない。以前にも優里を見たことがあるよ」
「そうなのですか?月島家にはよくお邪魔していたけれど、私は大悟さんにお会いしたことはなかったと記憶しています」
「だってアンタの隣りにはいつも綾人が居たから。俺はわざわざ綾人の居るところに顔を出すことはしない。うちに来て笑顔を張り付けて、綾人とや母さんと接するアンタを見てきた。うちを一歩出て、ホッとした顔になるアンタも知ってる」
「な…見られてたんですか」
月島家の中で気を遣った分、一歩外に出ると疲労が一気にこみ上げてきた。あの家に大悟さんがいると知っていたら、もう少しいい気分で高い敷居を跨げたかもしれない。
庭の花々を綺麗と感じる余裕すらなかった。
「アンタのばあちゃんが入院してる時、うちのばあちゃんも検査入院しててさ。毎日欠かさず見舞いにくるアンタの姿を見て、なんとなく思ったんだよね。ーーこの子は、綾人より俺の方が合うって」
そんな風に思ってくれたんだ。大悟さんが語る内容はどれも知らないことばかり。
「綾人じゃなくて、俺にすればいいのにって。ずっと思ってた」
「大悟さん…」
「だから結婚しようと言ったこと、その場のノリとかじゃねぇよ。昔から考えてたことを、結婚というかたちでアンタに伝えただけだ」
「最初からそう言ってくれれば…」
「無理に俺のことを好きになって欲しくなかったから、黙ってた」
強制せず、私のことを思って行動してくれていたんだ。なにも知りもせず、私は自分のことばかりだった。
「だから、ニセモノの家族なんて言うなよ。俺は本気でアンタのことを大切に思ってるし、女として好きだ」
「大悟さん…」
「おいおい、ばあちゃんの前で泣くなよ。俺が叱られるだろ」