優しい彼と愛なき結婚
子供達の無邪気な笑い声がする。
あのくらいの時は男女問わず泥だらけになって遊んだけれど、大きくなるとそうはいかない。男女の友情は成立しないと言われるし、綾人さんとは不釣り合いだと誤解した彼のファンから怒鳴られたこともあった。
「大通りでキスしようが、アンタに食べさせてもらおうが、人の目は気にならない。俺が気になるのはアンタの気持ちだけだよ」
自身の胸をトントン叩いた大悟さんは言う。
「だから嫌なことははっきりそう言え」
ずるい。
そんなカッコいい言葉と気遣いの言葉を投げておきながら、本人は平然とサンドイッチを食べている。
「大悟さんにされて、嫌なことはありません」
「昨夜は拒んだくせに?」
からかい口調で問われる。
「昨日は…その、大悟さんの気持ちが分からなかったから、怖くて。…嫌なわけ、ないです」
「……手を出すつもりなかったんたけどな。俺の自制心もまだまだだ」
溜息をついて大悟さんは笑った。
「ほら、アンタも食え。あーん」
言われるがまま口を開けると、甘い卵の味がした。今日の卵焼きは少し甘めだ。
そして大悟さんは残さず、お弁当を完食してくれた。