優しい彼と愛なき結婚

手際良くキャベツを切り、タネを効率よく掻き混ぜた大悟さんはお好み焼き屋のアルバイトをしていたことがあるという。

私が手伝ったことと言えば、ホットプレートに油を引いたことと、お皿を並べたことくらいだ。


「大悟、アンタは主婦の方が向いてるよ」

「ばあちゃん酷いな。そんなこと言ってると、ばあちゃんの卵だけ固くするぞ」

「半熟でなければダメだと言っているだろう」


私たち孫には優しいけれど、おばあちゃんは大悟さんには少し厳しい。言われた本人は全然気にしてなさそうだったけれど。


「大悟さんはサラリーマンからアルバイトに移って。すごい行動力だと思います」


「よくある転落人生ってやつ?」


「可愛い孫の旦那が転落した男だと?ふざけるのもいい加減にしなよ」


歩夢の言葉に大悟さんが冗談で答えると、おばあちゃんが突っ込む。


「怖っ…歩夢は?なにか将来のことを考えているの」


「俺は…」


器用にお好み焼きをひっくり返す大悟さんの問いに歩夢の視線が動いた。

あれ。何もないのか、言いにくいのか。
どっちなのだろう。


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