優しい彼と愛なき結婚
「私は都合のいい時だけ月島家のことを頼って、なんの犠牲も払わずに逃げようとしている卑怯者でしょうか?」
そうだと言われたら、決意が揺らぎそうだけれど確認せずにはいられなかった。
「あの女、誰だか知ってる?」
「見かけたことがあります。高校時代の綾人さんの彼女ですよね」
なにも話してはくれなかったけれど、高校生の綾人さんの隣りにはいつも彼女がいた。
昔と変わらずショートヘアだったな。
無邪気な笑みは、大人の女性の微笑みに変わっていたけれど。
「高校時代は互いに知らなかったみたいだけど、あの女…うちの父親の隠し子なんだ」
深いため息とともに吐き出された言葉。
意味が分からず、反応が遅れた。
「血が繋がっていたからこそ、惹かれるものがあったのかもな」
店内には程よくBGMが流れて雨の音なんて聞こえるはずがないのに、耳の奥がザーザーという異音に支配される。
「綾人さんはそのこと…」
「うちの母はどうか知らないけど、綾人と父は知ってる。彼女もな」
好きになった人が、義理の兄妹?
そんな悲しい現実があっていいのだろうか。