優しい彼と愛なき結婚

横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれる。

「…離して」

もうこの人に怯えたりはしない。堂々としていなければ付け込まれるだけだ。


「水無瀬が海外に行ってしまった。もう…僕はひとりだ」


少し前に友人の紹介先でホームステイをすると水無瀬さんから連絡があった。見送りに行けなくて残念だったけれど、大悟さんが送り出せたようで良かった。


「無理矢理に結婚しようとしたことは申し訳なかった。…それでも僕には優里が必要だ。優里がいなきゃ、僕は駄目だ」


いつもは自信に溢れる彼の表情が歪み、焦げ茶色の瞳も揺れている。


「結婚のことははっきりと断らなかった私も悪いし、この間のこともお金目当てであなたの言う通りにした私もいけなかったです。綾人さんだけが悪いだけではないけれど、それでももう二度と私に関わらないで欲しいです」


水無瀬さんのことは同情する。
でも私が綾人さんにしてあげられることはもうなにもない。


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