優しい彼と愛なき結婚
私には辛い時、家族がいた。
大悟さんにはお祖母様や、仲間がいた。
綾人さんには水無瀬さんがーー
「きっといつか綾人さんのことを真剣に思ってくれる人が現れます。だからそんなに悲観的にならないでください」
「…気休めの言葉などいらない」
弱々しく吐き出された言葉。
綾人さんは心から水無瀬さんを愛していたのだろう。大切な人を失い、嘆く相手が私しかいないのだ。話を聞き、寄り添ってあげる存在が必要だけれど、私には薄っぺらいことしか言えない。
私は、綾人さんが好きでないから。
だから私ではダメなんだ。
「綾人さん、ごめんなさい」
緩んだ手から抜け出すことに成功する。
「それが君の答えだね」
諦めにも似た穏やかな声。
綾人さんは逃げ道を塞ぐように前に立ち、ジャケットのポケットから取り出した白い紙を広げた。