優しい彼と愛なき結婚

私には辛い時、家族がいた。

大悟さんにはお祖母様や、仲間がいた。

綾人さんには水無瀬さんがーー


「きっといつか綾人さんのことを真剣に思ってくれる人が現れます。だからそんなに悲観的にならないでください」


「…気休めの言葉などいらない」



弱々しく吐き出された言葉。
綾人さんは心から水無瀬さんを愛していたのだろう。大切な人を失い、嘆く相手が私しかいないのだ。話を聞き、寄り添ってあげる存在が必要だけれど、私には薄っぺらいことしか言えない。

私は、綾人さんが好きでないから。
だから私ではダメなんだ。


「綾人さん、ごめんなさい」


緩んだ手から抜け出すことに成功する。



「それが君の答えだね」


諦めにも似た穏やかな声。

綾人さんは逃げ道を塞ぐように前に立ち、ジャケットのポケットから取り出した白い紙を広げた。


< 214 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop