優しい彼と愛なき結婚
売買契約書にはまだ押印はない。
今なら間に合う。
「それでも優里がフリースクールを守りたいというのなら、僕も考えるよ」
甘い声が耳に届く。
綾人さんがなにを言おうとしているか分かってしまった。
「君が大悟を捨てて僕の元に来てくれることが条件だけどね」
勝ち残ったような笑顔を浮かべる。
どうしてそういう生き方しかできないのだろうね。人の気持ちはお金や等価交換で買えるものでないと分からない?
「今日のこと、大悟さんに話します」
「どういう意味?」
その目が鋭くなる。
脅しにはもう二度と屈しないし、大悟さんには嘘はつかない。
「大悟さんと考えます。もう私はあなたの言いなりにはならない」
「結婚のことと言い、随分と大悟を信頼しているんだな」
その問いには迷わず頷く。