優しい彼と愛なき結婚

副社長は仕事の話もフリースクールの話も持ち出さず、当たり障りのない話題を振ってくれた。


「桜野さんは新婚だよね?」

「はい」


確か副社長は結婚をしていなかったはず。手当たり次第、女性に手を出すよりも一途に誰かを愛すタイプに見える。ううん、そうであって欲しい。女性関係の悪い噂をひとつも聞かないし。

いやしかし長い睫毛に美肌で髪もさらさらで女性が羨むところばかりでなので、彼女も大変だな…。


「結婚生活は楽しい?」


「彼がとてもいい人で。家事を分担してくれますし、私のわがままも沢山聞いてくれて。本当に優しすぎる人なのです」


「いい旦那さんなんだね。喧嘩することとかないの?」


「一度大きな喧嘩をしました。私が一方的に悪かったのですが…でも謝って許してもらって、今は穏やかな日々です」


綾人さんの一件では普段、温厚な大悟さんを怒らせ、互いに傷ついた。同じ状況に陥ることのないよう、綾人さんのことは全て報告しないと。今朝のことも。


「素敵なご夫婦だね。我慢しないで相手に吐き出して、沢山甘えたらいいよ」


「そうでよね…ぇ、ーー!?」


何気なく視線を向けた先、店内の入り口付近で見知った姿を見つけた。


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