優しい彼と愛なき結婚

お父様は仕事に行ってしまい、大悟さんも席を外した。

無口だが神経質そうなお父様よりも、威圧的なお母様が昔から苦手だった。同時に彼女を見て月島家に嫁ぐ女性は強く聡明でなければならないのだと悟った。私にはハードルが高い。


「大悟はフリーターを続けるようね」

「はい…」

「その気があれば月島で雇うのだけど…親の力に頼ることが嫌だと言って、わざわざ辛い道を歩むの。どんな時もあの子は私たちの手を借りず、ひとりで生きていく覚悟があるわ。新卒で入った会社では良いお給料をもらっていたようで、これまでかかった学費を私たちに返してきたわ。親としての義務ですら、必要ないようね」

「大悟さんらしいですね」


そうだったんだ。
私はまだまだなにも大悟さんを知らない。


「…大悟が選んだ相手なら、間違いないと思っているわ。あなたのことを認めています」

「お母様…」

「大悟の足だけは引っ張らないよう、努めなさい」

「はい」


ほんの少し目尻が下がっていた。
お母様なりに私を歓迎してくれていると思っていいのかな。

それなのに私は大悟さんを利用しているだけだ。

罪悪感。
背負っていくには大きすぎる後ろめたさ。

私の選択は正しいのだろうか。
今更ながらわき上がる不安に蓋をして、笑った。


「良い奥さんになれるよう、頑張らせていただきます」


もう少しだけ、目を背けていよう。
これは大悟さんが与えてくれたチャンスなのだから。

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