優しい彼と愛なき結婚
会社の上司や先輩に結婚のことを伝えた。祝福してもらい、とても恥ずかしかった。寿退社かと聞かれた時は素早く首を振っておいたけど。
私は株式会社赤羽電機に勤め、企業向けに営業を行なっている。元々事務職で入社したが、営業職の給与が高く、希望を出して異動した。任されたことをミスなくこなすことが事務職での私の仕事だったが、営業では同じようにはいかない。答えは自分で導き出していかなければならず、体力的にも精神的にも辛いものがある。
それでも負けを認めたくはなかった。
大丈夫、私はまだやれる。
しかし仕事に集中すればするほど、家事ができなくなるのではないかという懸念がつきまとう。毎月残業は多く、家事をこなす時間は少ない。掃除や洗濯、買い出しは休日にまとめて行い、料理は弟が担当してくれていた。
はっきり言って夫との新婚生活を第一に考えられる状況ではないと、大悟さんに伝えた。
騙して結婚するよりはずっと良いと思ったのだけれど、「じゃ、俺が家事やるよ」と白い歯を見せて彼は言ってくれた。
特に考える時間もなく、自然と口から出たであろう言葉に震えた。
何故、私の夫となる人はーーこんなにも優しく、温かいのだろう。
結局、その優しさに甘えてしまう私はズルくて、夫との生活よりも借金返済のことしか考えられない女ですと公言しているようで、胸が痛んだ。
傷つく資格なんてありはしないのに。