優しい彼と愛なき結婚
取引先を3社回り、会社に戻って報告書を書き上げた時にはもう20時を回っていた。
明日からは大悟さんと新居に住み始めるというのに、その支度がほとんど終わっていない。
1週間前の会話を思い出して、頭が痛み出す。
『できれば祖母と弟の近くに住みたいです。祖母は病気をして弱っているので、大学生の弟だけに任せることはその、できなくて…』
歯切れの悪い私の言葉に、大悟さんはうんっ、と頷いた。
『そのばあちゃんの病院が借金の理由だって言ってたよな。今、アンタが住んでるマンションに空きがないか聞いてみてよ?同じ建物に住んでた方が行き来は楽だし、飯も一緒に食えるし』
『でも、大悟さんは…』
『俺は布団さえあればどこでも生活できるから、こっちのことは気にしなくていいさ』
本当に気にしてなさそうにあっけらかんと言ってくれた。実は隣りのお部屋が空いていることを告白すると、すんなり承諾してくれて。
新居は今住んでいる部屋の隣り、305号室になったのだ。
どこまでも私中心の結婚。
大悟さんに我慢を強いるばかりで彼が結婚を決めた理由が見つからなくて、どうしようもなく不安になるのだ。