優しい彼と愛なき結婚

すぐに携帯のバイブが振動した。
ディスプレイに表示された大悟さんの名前。
起こしてしまったのだろう。


『少しいい?』


「もちろんです。引越しの準備、なにも手伝えなくてごめんなさい」


『いやいや。男は荷物が少ないから。ダンボール2箱もあれば十分さ。それより今日も遅いな?仕事お疲れさん』


「すみません。休みをとれなくて。明日と明後日は予定通りお休みとったので、今日の分まで頑張ります」


『あはは。普通は男が仕事仕事って言ってるとこなのに、なんだか悪いな』


「いえいえ。私の要領が悪いだけで…」


『無理するなよ。絶対に。辞めたきゃ、辞めればいい。俺は女ひとり、養えない男じゃねぇからな』


「大悟さん…」

疲れた身体と、それ以上に傷んだ心に染みていく。大悟さんと言葉を交わせば交わすだけ、彼の良いところが見えてきて。正直、困る。


『今夜はゆっくり休め。また明日な』

「はい、ありがとうございます」


本当の恋人のような会話がくすぐったい。
ああ、もう恋人ではなくて夫婦なんだ。

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