優しい彼と愛なき結婚
翌朝。
眠った時間は短いが、深い眠りだったようで疲れがすっきりとれていた。
外の気温は涼しく、引越しがしやすい天候だ。
「歩夢(あゆむ)、シチューありがとね。すごく美味しかったよ」
「今日の昼飯も任せて。姉貴の彼氏の分も作るから」
「有難いけど、大学の授業があるんじゃないの」
「午後から行くさ」
既にキッチンに立っていた弟は朝食のトーストを焼き、目玉焼きに醤油をかけたところだった。
「片付かないから姉貴も早く食べて」
「うん、ありがとう。おばあちゃん起こしてくるね」
弟というより私の母だ。
出来た弟をもつと姉は随分と楽ができる。
有名大学に進学し、24歳とは思えないほど落ち着いていてしっかりしている。
栗色のショートヘア。自宅で私が染めてあげた髪は毎日ワックスで人気俳優の髪型のように爽やかに整えられ、父似のはっきりとした目鼻立ちだ。
「姉貴、結婚おめでとう」
「ありがとう」
恋愛結婚。
弟にはそう説明し、もちろん疑われることもなかった。
後ろめたい思いもあるが、弟にはこれ以上の心配をかけたくないから今はまだ話せない。