優しい彼と愛なき結婚

それから30分程して引越業者が来たことで、私と大悟さんは隣りの305号室に足を踏み入れた。

歩夢はまだ話し足りなそうだったな。後で話してもらえるよう大悟さんにお願いしてみよう。

305号室は角部屋の我が家よりも一部屋数が少ない。それでも間取りは似ていて窓から見える光景もほぼ同じだった。


「打ち合わせ通りにお願いします」


引越業者の方に大悟さんは声をかけて、荷物の誘導をしている。

冷蔵庫や洗濯機などの家電と、家具のほとんどは大悟さんが使っているものをそのまま譲り受けた。


「本当に良かった?新居なら新しい家具で統一したいものじゃない?」

「まだ使えますし、もったいないですよ」


私の視線の先のソファーを見て、大悟さんは聞いてくれたけれど首を振る。

家に居る時間は少ないという大悟さんの言う通りソファーのクッションは弾み、ふかふかで新品同様だ。


次に運ばれてきたベッドは、先日購入したばかりのものだ。

大悟さんの家はロフトがあるそうで、そこで布団を敷いていたためベッドは持っていないと聞き、一緒に買いに行った。


「ベッドは寝室にお願いします」


大悟さんの立つ部屋は寝室にする予定で、ダブルベッドと、私の鏡台を置いてもらう。


ダブルベッド、その響きが気恥ずかしい。
リビング、寝室の他にもう一部屋あるから、お互いの部屋を作っても良かったのだけれど。

恐らく祖母や弟も出入りする新居で、ベッドが別々なことを見てどう思うのだろうと考えた結果、私が彼にお願いした。


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