優しい彼と愛なき結婚
いつもより多く作られた料理を大悟さんは残さず全て食べてくれた。
「大悟さんはどこでバイトしてるんですか?」
「美山駅前の"花林(かりん)"で接客している。コンビニもかけもってるけど」
「蕎麦屋の?」
「おう。知ってるか?毎日シフト入ってるから、いつでも来い」
「うちの大学からも近いから行きます」
大悟さんのことは歩夢が占領していた。
兄のような存在として認め始めている。
「でも大悟さん、失礼を承知で伺います。どうしてアルバイトのままでいらっしゃるのですか?」
歩夢は非難するつもりはなく、ただ疑問を解決したいだけだろうけれど、気まずい。
おばあちゃんもお茶を啜り、聞こえないフリをしていた。
横目で大悟さんを伺うと、クッキーに手を伸ばして平然と答えた。
「一流企業の社員でいることが、それ程大事なのか?俺はそうは思わないから、辞めた。確かに生きていく上で金は必要だし、金がなきゃ優里も幸せにできない。でも今はまだ貯金もあるし、優里に許されているうちはアルバイトで食い繋ぎたい」
「貯金を切り崩しての生活ってことですか?貯金は将来のためにとっておくべきだと僕は思います」
「歩夢、お姉ちゃんも納得していることだから」
私のためを思って敢えて聞いてくれているのだろうけれど、大悟さんは私の大きすぎるわがままに付き合ってくれているだけなの。
だからもう何も言わないで。