優しい彼と愛なき結婚
大悟さんはクッキーを食べながら、難しい顔をした。部外者から口を挟まれて気分を悪くしてしまっただろうか。
「…そうだな、歩夢はもう俺たちの家族なんだよな。ちゃんと話すよ」
大悟さんと目が合う。
「夜にアルバイトをして、昼間はフリースクールに通ってるんだ。事情があって学校に行けない高校生に勉強を教えてる。団体行動が苦手な子が多く、どうしても個別で教えざるをえなくて、先生の数が足りないんだ」
フリースクール。
それは大悟さんの口から聞く初めての単語だった。
聞いたことはあるけれど、どのような場所かはイメージがつきにくい。
「もちろん無償で教えてる。確かに自分の生活も大切だけど、若者の未来も同じように大切に思っているんだ」
想像を超えた話に歩夢は口を閉ざし、言葉を探しているようだ。
一言でまとめてしまえば、
見知らぬ高校生のためにタダ働き。
自身は定職にも就かず、赤の他人に時間と労力を割いているだけの日々。
普通の奥さんがどんな風に受け止めるかは分からないけれど、私はーー
「大悟さんらしいですね」
そう思った。