優しい彼と愛なき結婚
「アンタにはきちんと話そうと思ってたんだ。でも否定された時のことを考えたら、切り出せなくてな」
大学に行く歩夢とは途中で別れ、スーパーに向かう途中、大悟さんは立ち止まって頭を下げた。
「ごめんな」
「謝らないでください」
自身のことを多く語るには、私たちが一緒にいる時間は短すぎた。
「妻としては無責任な発言かもしれませんが、私は大悟さんの味方ですから」
「本当?アンタ、我慢してないか」
「してません。今は十分すぎるほど幸せです」
「分かった。これからも言いたいことがあれば、遠慮なく言ってくれ」
自宅からスーパーまでの道のり。
10分弱のこの道を後何回、2人で歩けるのだろう。
「今の俺にとって一番大切なのは、優里だから」
スーツ姿で、真剣な表情で、真っ直ぐな言葉をもらって。何も感じないでいる方が難しい。
「その言葉、私が落ち込んでいる時にまた言ってもらえますか?とても安心します」
「何度だって言うよ」
そう言って不意に私の手をとり、指切りをした。
絡めた小指は、その約束が固いものであるかのようにしばらくの間、放されなかった。