優しい彼と愛なき結婚
15分程、揺られていると見知った顔がホームに見えた。
歩夢が2人の男の間に立っており、その顔は暗い。
気になり、車両を変えて歩夢に近付く。
会話が聞こえる距離まで行き、他人のフリをする。
「歩夢、バイト辞めるなんて言わないよな」
「……」
「明日も必ず来いよ」
歩夢と同じ大学生には見えず、俺と同じくらいではないか。バイト先の先輩とも考えられるが、歩夢の表情からして親しいわけではなさそうだ。
「金が欲しいだろ?」
卑しい笑い。
電車の中、大声でする話でもないだろうに。
まぁ聞こえていたとしても傍のサラリーマンは何食わぬ顔をして携帯を操作している。面倒なことには関わらない、車内の乗客はそう思っていることだろう。
だが俺はそうはいかない。
歩夢は家族だから。