優しい彼と愛なき結婚
「うちの弟になんの用?」
第三者の登場に男たちは一歩後退した。
ここで助けに入ったのがサラリーマンの風貌をした奴だったら強気でいれたかもしれないが、生憎俺は強面だから少し怯んだようだった。
「弟になにしてくれてるんだよ」
しかし俺を見て一番怯えた目をした歩夢は俯いた。
「…おまえ、兄貴居たのかよ」
「しかもめっちゃ悪そう…」
最初から弱腰の姿勢に拍子抜けだ。
発車のベルが鳴り響き、電車をひとつ見送ることになりそうだがそう時間はかからないだろう。
「アンタたちの言うバイトにも歩夢はもう行かないから。付き纏わないでくれる?もし近付いたら、殴るだけじゃ済まないかもよ」
「…ちっ、行こうぜ」
2人は逃げるように出口に向かって走って行った。
この駅は映画館やデザートが立ち並び栄えている分、裏通りは怪しげな店で溢れている。歩夢がどこかに引きずり込まれていたら、危なかったかもしれない。
「アイツらバイト先の先輩?バイト変えた方がいいな」
近くのベンチに腰掛けると、歩夢もそれに倣った。
「時給が高いバイトがあるからと大学の友達に誘われて、つい…」
「なんのバイト?」
「女の子がいるお店でウエイターのようなことを…」
「やばい店なのかもな」
「はい…」
「まぁこれも社会勉強ってことで、いい経験になったんじゃない」
その店のこともまだ歩夢はなにも知らないようで安堵する。事情を知らぬ限り、あいつらはもう歩夢に近付かないだろう。