優しい彼と愛なき結婚
丁寧に髪を梳く指。
優しくドライヤーを当ててくれた。
時折り、彼の手が耳を掠める。
それがくすぐったくて恥ずかしくて、麦茶を飲んで誤魔化した。
会話はないが背後に大悟さんの体温を確かに感じる。まるでホンモノの新婚夫婦のよう。
「よし、これでいいかな。こっち向いて」
言われた通り、顔を向けるとくしで前髪を整えてくれた。
「綾人の好みだからアンタはこの髪型にしてるって言ってたけど。俺も好きだよ。よく似合ってる」
突然投下された"好き"の響きに上手く反応できず、曖昧に笑うことしかできなかった。
「次から、夫好みの髪型だと言ってくれよ」
「はい」
「いい子」
私の頭をそっと叩いて、大悟さんは立ち上がった。
「さぁ、寝るか。先、ベッドに行くぞ」
23時。
彼の"好き"がまだ頭を駆け巡っているが、今度は"ベッド"という新たな単語に動揺した。