優しい彼と愛なき結婚

「で?いってらっしゃいのキスは?」

お昼休み、無遠慮な質問を投げつけられむせそうになる。

奈緒さんはサンドイッチを頬張りながら、私の卵焼きに手を伸ばしてきた。


「なに?今日もしなかったの」


今朝は大悟さんが先に出て、私が見送る番だった。彼は大振りに手を振って、颯爽と駆けて行った。

朝から元気だなと、キスする暇なかった。
も、もちろんするつもりもないけれど。


「あー、優里ちゃんの卵焼き、本当に美味しいよね。勝手に食べちゃってごめん」


卵焼き…。
今朝の一件が頭に過ぎる。


「ん?どうした?」


「あ、いえ。美味しいって言ってもらえて、嬉しいです」


「本当に美味しいもの。お礼に今度、お酒奢るね。最近、残業続きで飲めてなかったじゃない。落ち着いたら行こっ」


「行きましょう!」


「そうだ。うちの営業所、他所より残業多いから、午後に副社長が見に行くるそうよ」


「はい?今日のですか?」


「うん。片付けしとこー」


デスクに広がるネイルやお菓子を引き出しにしまい始めた奈緒さんの予告通り、副社長が現れた。


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