優しい彼と愛なき結婚
株式会社赤羽電機。
今は数千人の従業員を抱えているが、少し前までは赤字続きの倒産寸前の会社だった。
しかし副社長が入社し、事態が一変したことは社内では有名な話だ。
当時、大学を卒業したばかりの副社長の経営コンサルティングにより、赤羽電機は見事に立ち直った。ここ数年は業績も右肩上がりで、社員にはボーナスで還元されている。大学生の就職したい企業ランキングも常に上位に食い込んでいる。
「お邪魔します。今日はみなさんひとりひとりと面談させていただきます。宜しく」
「宜しくお願いします」
あいにく課長は別件のトラブルに駆り出され、市野さんが代わりに対応していた。
赤羽 玲司(あかばね れいじ)副社長。
気品が溢れ、そこにいるだけで背筋が伸びるようだ。まさに副社長の風格をもつ。
乱れのない黒髪に長い睫毛と強い目力。少し気難しそうに見えるが、社員思いであると噂に聞く。
そんな人と一対一で話すとなると緊張する。向かいの席の隼人くんも落ち着かない様子で、ペンを持ったり置いたりしている。
私の発言で東京営業所の評判が落ちることはもってのほかだから、余計なことは話さない。聞かれたことだけに、多少の社交辞令を入れて答えればいいよね。