聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


いずみは、数日米酢を使った料理に夢中だった。
この国にも酢はあるが、麦を材料とした穀物酢かワインビネガーなので、和食とは地味に合わない。
ジョナスの伝手で仕入れてもらった米酢は、いずみの舌には懐かしい味だ。
だがそれも立て続けに食べれば飽きる。

「奥さま、今日は何作ります?」

ジョナスが腕まくりしながら入ってくる。

「……うーん。そうだな。今日はジョナスさんの料理が食べたいかな」

「へっ? 珍しいこともあるもんだ」

「だって。ジョナスさんが今まで作っていた料理もおいしいもの。自分の国の料理は懐かしいし好きだけど、毎日同じじゃなくてもいいの。いいものを取り入れて新しいものを食べたいじゃない?」

いずみの発言に、ジョナスは気を良くしたようだ。人差し指で鼻をこすって、「じゃあ、今日は奥様の国では味わえないような料理にしましょうか」と笑った。

「手伝うね。私、この国の料理も覚えたいし」

「じゃあ、そこの芋の皮をむいてくだせえ」

いつもの調子でジョナスといずみが気軽に会話していると、入ってきたスカーレットが彼の頭を叩く。

「あんた! 奥さまに下働きみたいな仕事させるんじゃないよ!」

「だって仕方ねぇだろう。奥様は魔法つかえねぇんだから」

「いいのよ、スカーレットさん。私が手伝いたいって言ってるんだから」

いつものバンフィールド伯爵家の平和なやり取りである。

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