聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
そのとき、廊下をバタバタと走る音がした。
珍しいなといずみが振り向くと、ジナが息を切らして入ってくる。
「大変です、奥様」
「どうしたの、ジナ」
「旦那様が、遠征中に大けがを負って、騎士団宿舎に運ばれているそうです……!」
いずみは一瞬、内容が理解できなかった。
百戦錬磨だという彼の経歴から、そんな心配は全くしていなかった。それだけに、いずみの頭は真っ白になってしまったのだ。
(大けが? 運ばれて? それってどういう)
いずみの手から、芋が零れ落ち、足もとで転がった。先に我に返ったジョナスが、「奥様、芋なんて剥いてる場合じゃねぇよ」と、彼女の肩を揺らす。
「そ、そうよね……私、騎士団宿舎に行ってくる」
「奥様、私もお供します」
ジナの申し出に頷いて、いずみは取るものもとらず駆け出した。リドルにより既に馬車は用意されていて、いずみは感謝しながらそれに乗り込んだ。