聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
*

「……怪我をした経緯はそんな感じです。俺のせいなんです。すみません」

いずみは、騎士団宿舎で発熱にうなされているアーレスと対面した。
ジナは現在廊下で待っていて、部屋の中にはいるのはいずみを含めて四人だ。寝ているアーレスと、副団長だというルーファス、そしてフレデリックという名の騎士が、べッド脇に控えている。

「アーレス様はあなたをかばったということですね」

アーレスの額の汗をハンカチで拭い、いずみは彼の手を握る。
この手が、こんなにも力なく動かない様子を、いずみは見たことが無い。
大きくて頼りがいのある彼が、こんな風に眠っているのも。
夫婦と言いながら夫婦生活のないふたりは、互いに無防備な姿をさらしあったことはないのだ。

(でも、何にも知らないわけじゃない)

アーレスはこの騎士団を叩きなおしたいと言っていた。
それはきっと、こんな風に怪我をする人間が少なくなるようにと願っていたからだろう。
国を守る役目の騎士団がたるんでいては、守られる国民はこの程度では済まない。アーレスだから、命には別状のない程度で済んでいるが、一般人が襲われれば数人死亡していたかもしれないのだ。

「……上官が部下を守るのは当然のことです。謝るのはもうやめてください」

「聖女様」

いずみの胸に、いら立ちが沸き上がる。
思えばこの青年は、最初にいずみを見て、明らかに落胆したのだ。そして「アーレスの妻のいずみです」と名乗った後も、聖女と呼び続ける。

「私はいずみという名で、アーレス様の妻です。もう聖女ではありません!」

自分でもびっくりするほど、凛とした声が出た。驚き、目を見張るフレデリックは、慌てて「す、すみません」と頭を垂れる。
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