聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「なるほど。では、食堂の担当者に伝えておきましょう」
「あ、そのときに、ひとり補助をお願いしたいってことも伝えてもらっていいですか?」
「補助?」
「調理のための魔法が使える人がいいです。よろしくお願いします」
簡単な生活魔法さえ使えないことを、夫の部下には知られたくはない。
自分だけではない、彼の沽券にかかわるからだ。
「話は通しておきましょう。ここは任せてよろしいですかな?」
「ええ。もちろん」
ルーファスも出ていくと、本当のふたりきりなる。
今だ目を開けていない夫だが、意識がないというわけではなく、起きていたときもあるらしい。そのときは、ちゃんと会話もしていたのだという。
小一時間ほど前から熱が上がってきて、彼はずっとうなされているのだそうだ。
いずみは額に載っているタオルを、冷たい水の入った桶で絞り直すと、再び彼の額に乗せた。
そして、熱のこもった彼の手に、小さな白い手をそっと重ね合わせる。
「心配しました」
聞こえてもいない夫に、ほんの少しの恨み言を言う。
「今もまだ、心配です」
倒れることなどないと思っていたアーレスの怪我は、いずみに相当の衝撃をもたらした。
うっすら、瞳に涙が浮かぶ。
彼に食べてほしいと、不在の間に考えたたくさんの料理も、彼がいなければ何の意味もない。
いずみを構築する世界のすべてが、今はアーレスなしでは成り立たなくなっていた。