聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
食堂は、騎士団宿舎の一階にあった。
通いの団員もいるので、夕食を食べるのは騎士団全員ではない。それでも五十名近い人数が寝泊まりしているので、食べるためのスペースは広かった。机と椅子が三列に並べられていて、厨房とはカウンター越しに繋がっている。貼り紙を見るとメニューは一種類のみのようで、選ぶ楽しみといったものはなさそうだ。
呼ばれて出てきたのは、まだ十代と思われる若い女の子だ。赤茶の髪をみつあみにした、少し釣り目の元気の良さそうな女性である。
「調理補助と配膳を担当しているエイダです。家族で運営していまして、父と母は料理人です」
その父親と母親は、忙しく野菜を洗ったり、芋の皮を剥いたりと下ごしらえにいそしんでいる。
手を止める暇はないのか、ちらりと視線をむけ、軽く頭を下げられただけだ。
どうやら夕食の仕込みをしているらしい。
「騎士団長アーレス・バンフィールドの妻のいずみです。よろしくお願いいたします」
イズミが丁寧に頭を下げると、「はあ。よろしくお願いします」と気まずそうに自らも頭を下げた。
「では任せていいか、エイダ。団長の奥方に失礼のないようにな」
「はーい」
ルーファスが出ていくと、エイダの表情から愛想笑いが消えた。口を真一文字にして、訝し気にいずみを見ている。
いずみも逆の立場なら面白くはないだろう。自分の職場に、上官の妻が我が物顔でやって来て指示を出そうとしていれば、反発のひとつもしてみたくなるものだ。