聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
なるべくならば心証を良くしたいし、手伝いたいのだが、勝手の分からない人間が口を出せば邪魔なだけだし、ましていずみは団長の妻ということで相手も気を使う。揉めるのも嫌なので、まずはこの厨房でのやり方をみてみることにした。

本日のメニューは、ベーコン入りのハードパンと、野菜をごった煮したようなスープ、それにゆでたポテトと豚肉のバターソテーだ。

じっと見つめながら、彼らの動きに無駄がないかを観察する。

(……動線が悪いかな。エイダさんが無駄にいっぱい動いてる)

皿の置き換えのような作業が非常に多い。
加えて、作る量が多いこともあって、豚肉のバターソテーの最初の分はすっかり冷えてしまっている。
焼くだけだから楽だと言われればそうかもしれないが、熱の冷めたソテーは魅力半減だ。
同じ栄養を取ろうと思ったら、もう少しまとめて作れるメニューの方がいいような気がする。

エイダは、料理長の父親が焼いたバターソテーの皿を、厨房内から手を伸ばし、カウンターのところに並べていく。だが、彼女の手が届くのはせいぜいカウンターの半分くらいまでだ。

「手伝います」

そこでいずみが動き、カウンターの外側から皿を受け取って、端まで並べる。エイダは目を見張った。

「ちょっ、困ります。団長の奥さんにそんな下働きみたいなことさせたらこっちが怒られます」

けれどいずみは目もくれず、盛られた皿を並べていく。

「ちょっと!」

「自分から手伝うと言っているのに、なぜあなたが怒られるの? 私は、早くアーレス様のために料理がしたいの。そのために、早く先の食事を終わらせたいのよ。そのために仕事を手伝うのはおかしいこと?」

言葉を詰まらせるエイダに、父親は「好きにやってもらえ。どうせ俺たちは、貴族の奥方には逆らえねぇんだから」と冷たく吐き捨てる。

「……っ、分かったわよ」

厨房は気まずい雰囲気だ。けれど、いずみは一度ぺこりと頭を下げ、おかずの皿をすべてカウンターに出した。そうこうしているうちにざわざわと騒がしい音がする。
< 138 / 196 >

この作品をシェア

pagetop