聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

「エイダ、今日はまだか?」

騎士団員たちである。先ほど激しく鍛錬していたこともあって、すっかり腹を空かせてやって来たらしい。

「ああ、すみません。もう準備できますから」

エイダが慌てて、カウンターにあったおかずの皿を、テーブルに運び始めた。いずみは一瞬何が起こっているのか分からなかった。

「エイダさん、もしかしてこれいつも全部、テーブルにまで運んでいるの?」

「え? もちろん。いつもだったら呼びに行くくらい余裕があるんです。今日はイズミ様がいたから……」

「それは悪かったわ。でも、最初から全部自分で取って行ってもらったらどうかしら」

「え?」

配膳用のお盆はあるのだから、最初から一つずつ持って行ってもらえばいいのだ。
エイダがひとりで五十以上の料理をセットするなんて非効率にもほどがある。

「でも、ひとりでふたつとっちゃう人がいるかもしれないし……」

「そこは節度を持っていただくしかないけど。そうね。ズルをした方はアーレス様に報告しましょう。……皆さん、まずはそこのお盆を取ってください」

自分の世界での食堂のイメージだ。まして、ここではメニューがひとつに決まっているのだから、悩むこともない。

イズミの呼びかけに、「誰だ?」と集まった騎士団員がざわめきだす。

「団長の奥さんだよ」

「え? じゃあ聖女ってこと? ……嘘だろ?」

ミヤさまと比べ、幻滅する声。もう慣れっことはいえ、胸に突き刺さる。
いつもなら落ち込むところだが、アーレスのことを想うとそんな時間すらもったいない。
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