聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

今は一刻も早く、アーレスのための料理を作りたいのだ。人からどう思われてもいい。自分の大好きな彼の役に立ちたい。

「今日はいつもとシステムが異なります。よく聞いてくださいね。一列になって、パン、おかずの皿、スープ、飲み物、カトラリーをお盆に入れて自分の席まで運んでください」

「えー、何でだよ」

「こぼれるものを零さないように運ぶのは、神経を集中し、繊細な動きをする訓練になります。騎士団に要求されるのは荒っぽい動きだけではないはずです」

「でも……」と続ける団員たちにはっぱをかけてくれたのは、フレデリックだ。

「無駄口叩かねぇでさっさと食おうぜ。俺、腹減ったよ」

「よく言うよ、いつも無駄口叩いてんのはお前だろ?」

フレデリックのひと言で、団員たちの茶化す矛先が変わった。もとより、団長の奥方で聖女という立場のイズミは団員たちからすればいじりにくい存在であるから当り前だ。

まずひとつひとつ皿を取っていくフレデリックに、感謝を込めて微笑みかけると、ウィンクを返された。どうやらなかなかに社交的な人物のようである。だがしかしそのやり取りを不満げなまなざしで見つめている人物がいた。エイダである。

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