聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「俺は知らん。部屋に戻ったと思っていたんだが。ジナはどうしてイズミを見失ったんだ?」
「私は、奥様に言われて、着替えや食材を取りに一度屋敷に帰ったんです。で、戻って部屋に案内されたら姿が見えなくて。しばらく待っているんですが……」
つまりジナは、いずみが泣いている姿は見ていないということだ。
「……探してくる」
ふらついた体でアーレスが踵を返すと、ジナが慌てて駆け寄ってくる。
「旦那様、まだ熱があるのでは? 私が探しますから、お部屋で休んでいてください」
「いや、駄目だ。ちょっと行き違いがあったようなんだ。自分で説明しないといけない」
「ですが、旦那様になにかあったら悲しむのは奥様です」
ジナの言葉はもっともだ。だけど、今部屋に戻ったところで、きっと休めなどしない。
いずみが泣いているかもしれないのに、ただじっとして心配しているなど、耐えられない。
(……やはり、ミヤさまへの気持ちとは違う)
アーレスがミヤ様を知ったとき、彼女はすでに宰相と結婚していた。
それでも、美しく聡明な彼女に、アーレスの心は一瞬で奪われた。
アーレスは彼女が困るところなど想像さえしていなかった。もし何かあれば彼女には夫がいる。自分にできるのは、彼女の住まうこの世界を敵国や獣たちから守ることだと思って実行してきた。夫に嫉妬のひとつもすることなく。
嫉妬もしない感情が恋であるはずがない。そのことに、アーレスは本当の恋をするまで気づかなかったのだ。
「イズミは俺が探す。ジナは彼女が戻ってきたら困らないように、部屋を整えておいてくれ」
「でも、アーレス様」
「いいから、熱くらい大したことはない」
止めようとするジナを言いくるめ、アーレスは再び部屋を後にした。