聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

「アーレス様? 熱は? なにしてらっしゃるんですか!」

いずみは、セシリーに急いで別れを告げると、慌てて駆け寄った。
だが、逆にグイっと顔を持ち上げられ、鼻がぶつかりそうなくらい近くで凝視される。

「泣いてないか?」

押さえられているが、なんとか首を振る。
アーレスはホッとしたように息をつき、いずみの額に頭を乗せた。
息が荒い。少し走ったくらいで体力馬鹿のアーレスの息が荒くなることはないのだから、これは明らかに熱のせいだ。

「フレデリックが何を言ったか知らんが、俺が大切なのは君だ。君が俺の妻だ。もうずっと、ミヤ様のことは忘れていたくらいだ」

アーレスがポケットからワックス紙に包まれた袋を取り出した。中には刺繍の髪飾りが入っている。

「これを君に……」

普段吐かない甘い言葉に、一気に頭に血が上ったアーレスは、小さな袋が自分の手のひらから滑り落ちていくのを、不思議に思いながら見つめた。

(どうしたことだ? この俺がこんなものも持てないとは……)

「アーレス様? しっかりなさってください」

いつの間にか、いずみの顔がすぐ横にある。自分がバランスを崩して膝をついていると気づいたのはその後だ。

(こんな熱ごときで……)

「泣くな、イズミ」

涙目になっている妻に、それを告げた途端に、頭の中を闇が襲った。

「アーレス様? 死なないで!」

結局泣かせているのは自分じゃないかと思いながらも、落ちていく意識の中で必死にいずみを抱きしめた。
手に入らないで構わない、なんて彼女に対しては思えない。見失うなどごめんだと思ったのだ。
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