聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
オスカーの提案は、前向きなものだ。……この世界の人間としては。
でもいずみは不満だった。好きでこの世界に来たわけじゃない。

「えっと、あの。私、帰りたいんですけど」

「ん? なんだと?」

「ですから。元の世界に帰りたいのです」

勇気を振り絞って、毅然とした態度で言った。後は、彼らが帰還への方法を教えてくれれば完璧だ。
しかし、オスカーは美しい顔を少し翳らせた。

「申し訳ないが、帰る方法というものは無いのだ。ミヤ様の残した文献によると、聖女は元の世界で死と直面した人間から選ばれるらしい。ミヤ様も地震でタンスとやらが落ちてきたと思ったらこの世界に来たと言っていた」

「……そんな」

目の前が、真っ暗になった感覚があった。いずみは自分の頬をつねり、痛みを感じて泣きたくなる。

(これって本当に本気で現実なの? だったら私、帰れないの? 役立たずのまま、ずっとここに居なきゃならないの?)

ナイフとフォークが止まったのを見て、オスカーはさすがに気の毒と思ったのか、優しい声を出した。

「心配せずとも、君のことは王家でちゃんと面倒を見よう。聖女として活躍してくれれば言うことはないが、もし能力が目覚めなければ、しかるべき嫁ぎ先を私が世話してやる」

「と、嫁ぎ先?」

(いきなり結婚? いや、見合い?)

驚くいずみに、オスカーは怪訝な顔を向けた。
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