聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

「なぜ泣いているんだ」

アーレスの声は途方に暮れていた。内心、彼は今恥ずかしいのだ。
歴戦の騎士が聞いて呆れる。部下をかばって怪我をしたことも恥ずかしいのに、たかが騎士団内をふらついただけで倒れるなど、情けないにもほどがある。

(たしかに年を取ったのかな。昔なら熱や怪我ごときで倒れるようなことはなかったのに)

揚げ句、大事な妻を心配させた。

(……心配)

それで、なぜ昨日、倒れるまでいずみを探す羽目になったのかを思い出した。
慌てて神妙な顔になり、いずみを説得にかかる。

「イズミ、誤解だからな。フレデリックがなんと言ったか知らんが、俺はミヤ様のことは……」

「それはいいんです。ミヤ様は本当に完璧な聖女ですもん。アーレス様が憧れていても当然です」

「いや、まだ誤解しているだろう! 周りはミヤ様を想って俺が今まで結婚しないように思っているが、違うんだ!」

「なにが違うんです?」

小首をかしげながら、いずみがアーレスを見上げる。
そこに、刺繍の髪飾りがついているのを見て、アーレスは目を見張った。

「それは……」

「あ、……昨日、くださったように思えたのでつけてしまいましたが。私……いただいてよかったのでしょうか」

「もちろんだ。それはイズミのために買ったものだ」

そして拳を固め、自分の拙い口を忌々しく思いながら、アーレスは彼女の髪を撫でる。
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