聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「……うれし過ぎて死ねます。私の人生で、今が一番幸せかもしれません。アーレス様が、……アーレス様だけがいつも、心の底から嬉しい言葉を、私にくれるんです」
アーレスは喉の奥がひりつくような気がした。目の前の女性を抱きしめてキスをしたい。
沸き上がってくる渇望に、思わず生唾を飲み込む。
(俺だって初めてだ。こんなに、誰か一人を欲しいと思うなんて)
「イズミ……」
渇望に逆らわず、アーレスは彼女を引き寄せた。戸惑ういずみの顔が可愛くて、どうにも困らせたくなる。
しばらく焦らすように頬にキスを落とし、もう耐えられないとばかりにギュッと目を閉じたいずみのその行動を了承と受け取って、唇を寄せた。
が、突然「だめですー!」とジナの大きな声が廊下から聞こえた。
触れる直前の唇は、ほんの数センチの距離まで近づいて離れた。
「……なんだ?」
「なんでしょう」
「覗きは禁止です! もうっ、ちょっと目を離した隙にっ」
いずみとアーレスは顔を見合わせる。どうやら、誰かが覗いていたらしい。
興がそがれた状態で、アーレスはいずみから手を離す。
「悪いが、ちょっと見てきてくれるか?」
「はい」
いずみが立ち上がり、戸口による。そして外と二言三言話すと、ある人物を中へ引き入れてきた。
入ってきたのはフレデリックだ。
「へへ……すみません団長」
へらへらした笑顔に、アーレスの眉間に深いしわが刻まれる。