聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「全く。あの年まで独身なのがうなずける旦那様ですわね」
まるで母親のような言いっぷりおかしくて笑ってしまったら、ジナも顔をほころばせた。
「きっと緊張しているのですわ。イズミ様もまだ緊張していらっしゃるでしょう」
「うん……あ、はい」
「敬語はいりませんよ。私は使用人です。さ、入浴の手伝いをいたしましょうね」
「うん。お願いします」
私達は使用人だ、とジナもメイドのスカーレットも言う。
だけど、いずみにはその感覚が理解できない。
世話をしてくれる人にお礼を言ったり、敬意を表すのは当然だと思ってしまうのは、やはり日本人だからなのだろうか。
「ジナさん」
「はい?」
「この世界ではジナさんの方が正しいのかもしれないけど、私、初対面の人や年上の人には普通に敬語が出ちゃうんです。慣れれば抜けると思うんだけど、しばらくは見逃しておいてくれると嬉しいです」
ジナはきょとんとした顔で私を見ると、やがて「あはは」と笑い出した。
「奥様は、かわいらしい方なんですね」
(なぜ今の会話でそうなった)
褒められるのは嬉しいけれど、覚えのないことで褒められるのは逆に恥ずかしい。
「奥様もやめて欲しいです。名前で呼んでください。いずみです」
「ではイズミ様。人前ではできるだけ言葉にお気を付けください。屋敷の中でなら、私は気にしないようにいたします。これでよろしいでしょうか」
「ありがとう」
折衷案をくれて、いずみはホッとした。
ジナはいい人だ。一般的なきまりを教えてくれるけど、押し付けがましくはない。
ジナがいずみの〝普通〟を認めてくれる分くらい、ジナの〝普通〟を尊重しようと思える。