聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

「ね、ところでジナさん。アーレス様は……」

「おやすみなさい」くらい言いたいと思って尋ねると、ジナは気まずそうに視線を落とした。

「旦那様は隣のお部屋です。ですが、今日はゆっくり休まれるようにとの仰せです。その……様々なことは落ち着いてからということなのでしょう」

それは先ほど本人からも言われているので気にはしていない。
だがジナが落ち込んだ様子だったので、聞いたことが逆に申し訳なくなってしまった。

「いいのよ。ご挨拶だけしようと思ったんだけど、やっぱり明日にするわ。ではおやすみなさい」

さも気にしていないようにふるまい、笑顔でジナを送り出してみた後は、ひとり反省会だ。

「……花嫁なんて言っても、本当に形式だけね」

何せ国王からの命令だ。
どんなに嫌でも断ることはできないのだろう。
だが、こうして初夜をひとりきりで過ごさせるところを見ると、本当の妻にする気はないらしい。

アーレスの優しさの根底にあるのは、きっと同情と国王への忠誠心。
分かっていたことなのに、ここでもやっぱり自分は必要とされないのかと思うと切なかった。

「やめやめ! 腐ってても仕方ないもん」

いずみは大きなベッドにダイブする。いい勢いでクッションが沈み込み、ベッドに抱きこまれるような感覚になる。王城のベッドもクッションがよかったけれど、この屋敷もなかなかだ。

やがて、隣の部屋から物音がした。
隣はアーレスの部屋だというが、まだ寝てないのだろう。

(それにしてもドスンドスンうるさいな。まるで運動でもしているみたい。今何時だかわかってます?)

「……ぷっ」

いずみは思わず笑ってしまった。そして思う。
王城のシンとした空間に比べたら、うるさいくらいの方が嬉しい。
少なくとも、ひとりじゃないって思えるから。
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