聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
みんな神妙な顔で頭を突き合わせている中、いずみだけは、何だ、そんなことか、と笑った。

「料理? じゃあ私が作ります」

「え? 奥様が?」

「ええ。私、召喚される前は料理研究家だったの」

誰に言われる間もなく腕まくりをする。
この世界に呼び出されてから、包丁も握らせてもらえなかった。久しぶりに料理ができるというなら、腕がなる。

「いけませんわ。貴族の奥方が料理なんて」

止めに入ったのはジナだが、いずみは両手を合わせて懇願する。

「私がしたいのよ。お願い」

元々、いずみは料理が好きだ。
ここに来てからは、聖女としての能力開花ばかり求められて、言われるがまま暮らしてきたけれど、本来いずみがなりたいのは聖女ではない。昨日アーレスに言ったとおり、自分のやりたいこと――料理を仕事をするために努力を重ねてきたのだ。

(センスがなくても、栄養のあるおいしい料理が作りたい。みんなに喜んでほしくて……)

料理研究家を目指したその瞬間の気持ちが、ふいに沸き上がってくる。

(そうだよ。努力……。この世界で、望まれた聖女になれなくても。ここで生きていかなきゃいけないんなら、努力して自分の居場所を作らなきゃ)

「アーレス様が怒るなら、後で怒られるわ」

「イズミ様……」

心配顔のジナを振り切り、いずみは厨房へと向かった。
古い屋敷だけあって、造りが複雑だ。廊下を通って行ける部屋もあれば、別の部屋を通らないと次の部屋に行けない場所もある。
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