聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
厨房は一階の端にあった。パントリーと続き部屋になっていて、排気の関係なのか、厨房の方が外側だ。
大きな調理台と、石釜でできたオーブン。煮炊きをするためのスペースは土間になっている。
「いてててて、誰でい」
その土間のところに、腹痛に見舞われている料理人がうずくまっている。
昨日も顔合わせしたときに名前は聞いた。――ジョナスだ。年は四十歳で、妻と息子と住み込みで働いている。
ちなみに、妻がメイドのスカーレットだ。
「こんなところで痛がっていないで、医者に診てもらってください。リドル。お医者様を呼んで」
「は……しかし。使用人を医者に診せるなど」
リドルに困惑され、その事実にイズミはビックリする。目の前に病人がいて、どうして医者に診せることを渋るのか。
「うちの料理人が病気なんでしょう? だったらアーレス様が面倒を見るのは当然だわ。料理人がいなかったら困るのはアーレス様なんだもの。……私が多少自由にお金を使っても困らないとアーレス様は言ったわ。そのお金を使って医者を呼んで、彼を診てもらって」
「は、はいっ」
ジナが医者の手配をしている間、いずみは厨房を見渡した。
昨日は歓迎を祝ってごちそうだったから、残り物がたくさんあった。
使用人にも下げ渡されたはずだが、それでも食べきれないくらいだったのだろう。
調味料を確認する。
塩、コショウ、砂糖、お酢らしきものがある。
(味噌と醤油は……あるわけないか。異世界だもんね)
しかも、この世界は全てにおいて西洋風だ。パンはあるけど米はない。そんな世界。
だが小麦粉は大量にありそうだし、パンは何日か分まとめて焼くのか、すでに焼かれたものがあるようだ。
うん。これだったら。