聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「あ、その、同情のまなざしみたいなのいりません。それよか聖女情報! 期待して待ってますよ!」
けたたましくそう言うと、フレデリックは同僚のセイムスに呼ばれて行ってしまった。
「お前、よく団長に声かけられるな。怖くねぇ?」
(聞こえているぞ、セイムス。午後の訓練でみていろよ)
大人げない誓いをしながら、話に出てきた聖女のことを考えた。
このむさくるしい野郎どもとは全く真逆に、華奢で、深く黒い瞳と髪を持つ彼女は、二十六歳と言ったが、少女のような危うさを持っていた。
ああ、フレデリックと同じ年なんだな。
昨日の食事中も、終始困り切っていたように見えた。
かわいそうに、十も年上の男に嫁がされて、さぞかし怯えているのだろう。
彼女が落ち着くまでは、食事の時間も分けたほうがいいかもしれない。
(俺みたいなクマ男、か細い彼女にはきっと、恐怖の対象でしかないだろうしなぁ)
自分の考えに軽く落ち込みながら、アーレスはため息をついた。
職場は貧弱な若人ばかりだし、食事はまずい。ストレスがたまりまくりで胃が痛い。
「……ああ」
(辺境地に帰りたい)
言ってはならないが本気でそう思う。
(……もしあの子を辺境地に連れて行ったら、どんな顔をするだろう)
自然に、イズミを連れていく想像をしてしまった自分に驚く。
これが夫婦になるということかと改めてアーレスは思った。
(もう俺の予定は、俺一人の都合では決まらないのだな)
それは面倒な気もしたが、同時にこそばゆい感覚ももたらした。