聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


脳筋体質のアーレスは、悩みごとがあると体を使って忘れようとする。
これからの聖女との生活。夫として自分はどうすべきなのか。
なまじ真面目なだけに、考えていると気が重くなり、結果、本日は剣が刃こぼれを起こし、兵士たちが「殺される」と半ば本気で囁き合うほど容赦なく鍛錬を行った。

そんなわけで屋敷に戻ったのは、すっかり日が暮れてからだった。

「新婚なのに早く帰らないとか、本当に駄目ですね。聖女に飽きられちゃいますよぅ」
と悩みが深くなるようなことを言って送り出したのは、フレデリックだ。

王都にある屋敷にはすぐに着く。馬を厩につなぎ、それでも中に入りづらく、肩をまわしたりして無駄に時間を使っていたら、リドルが気付いて扉を開けてきた。

「なにしてらっしゃるんですか、旦那様」

呆れたようなまなざしに、アーレスは返す術をもたない。まごまごと黙っていると、リドルの陰からいずみがひょこっと顔を出した。

「おかえりなさいませ、アーレス様!」

アーレスの悩みを一蹴する勢いでご機嫌だ。
昨日までの、無理やり明るくしている感じとは違う。

アーレスは気おされて、「ただいま」と呆けたままつぶやいた。

「私、アーレス様に見てほしいものがあるんですっ」

いずみは、アーレスの腕を掴むと、ぐいぐいと引っ張った。子供のような仕草だが、相手が大人の女性である以上、柔らかい感触が腕に伝わってきて、アーレスの思考を奪っていく。
< 64 / 196 >

この作品をシェア

pagetop