聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「は、離してくれ。行くから」

「……そ、そうですか? すみません。引っ張ったりして、痛かったですか?」

小首をかしげて、いずみはしょげたような顔をした。
痛いわけがないだろう……とは口に出さず、アーレスは咳ばらいをして彼女の後に続く。

彼女が向かったのは食堂だった。
入った瞬間、余り嗅いだことのない香りがした。

「今日の夕飯です。エンドウ豆のスープとサラダ。チキン南蛮です」

「なんば……?」

「鶏肉を揚げて、甘酢とタルタルソースで仕上げたものです」

「まて、タルタルとは……」

「あーもう面倒くさいです。とにかく食べてくださいっ」

イズミに無理やり座らされ、アーレスは目の前の料理をまじまじと見た。

(いつものパンはいい。サラダもマメのスープも分かる。見たことが無いのはこのチキン南蛮とかいうやつだ。表面になにかくっついているが、チキンなのか?)

「この世界には揚げ物は無いんですね。びっくりしちゃいました」

いずみが頬に手を当てて感慨深げに言ったときに、ようやく彼女が機嫌よく迎えに出てきた訳に気づいた。

「……これはもしかして、イズミが作ったのか?」

「はい。料理人のジョナスさんが病気になりまして」

「だからといって君がやらなくても」

いずみはこの屋敷の女主人だ。
彼女は命令する立場であるのに、誰が彼女にそれを命じたのかと、一瞬怒りが燃え滾った。
しかし、いずみがやたらにご機嫌なことと、彼女が焦ったように見上げてきたことで怒鳴らずには済んだ。

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